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「貸し借り」の感受性

「貸し借り」の感受性

自分は、今、誰にどれだけ「借りて」いるんだろうか?

 

お金の話ではありません。

いわゆる「恩義」のお話。

 

お願いします、という頼みごと。

仕方ないな、という頼まれごと。

仕事では、この様々に行き交う「貸し借り」を感じる力があることがとても大切だと思います。

 

アメリカの心理学者であるアダム・グラントが執筆した『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』という本。

 

去年流行りに倣(なら)い読んだこの本では、長期的に成功する人のほとんどがギバー(与える人)であることや、なぜギバーが成功するのかというメカニズムが、様々な研究をベースに説明されています。

ギバーの「返報性の原理」だの、「テイカーの詐欺師」だの、、、

その論の真偽や、論に共感できるか否か云々はどうであれ、これ、所謂ギブテ(キブ&テイク)のお話。

要するに、この本も、形を変えた「貸し借り」の存在がベースとなって成立しているお話なのです。

 

実際、仕事の場、個々の取引においては、一つ一つのやりとりを完全にフェアに、イーブンバランスにすることは難しいものです。

多少こちらが得をするか損をするか?

逆に相手が得をするか損をするか?、と、事は始まり、進み、決着する。

 

前はこちらで、今回はそちらで、次はこちらで、、、 

だからこそ、互いがまっとうな仕事をしようと考えれば、「長期的には」フェアに=互いの損得がイーブンバランスになるように目指していきましょう、という暗黙の了解が、同時に存在しているものです。

故に、仕事には「貸し借り」を感じる力、が欠かせない。

 

こちらが「まずあなたに貸しますよ」というつもりでやっていても、相手に「貸し借り」を感じる力が無ければ、借りていることに気づいてはくれません。

やってもやっても返ってこないし、なんなら何度も頼みに=「借りに」来る。

これが日常のただの親切であれば、それでいいのかもしれません。

けれど、こと仕事となれば、こういう関係の継続は難しい。

 

そして「まずあなたに貸しますよ」と施してくれる人ほど、これはあなたに恩を貸しているんですよ、とは、はっきり言ってはくれません。

だから一般的には、貸してみて、返ってこない人、つまり「貸し借り」を感じる力のない人には、何も言わずに貸さなくなる。

そうやって、少しづつ信用≒仕事や仲間を失っていくのです。

 

「貸し借り」を感じる力を得るには、仕事において相手から施されたことがどんな意味を持つのかを考え、理解する癖を持つことだと思います。

先に紹介した『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』でも、自他の不利益を避けるためには相手の感情を察するのではなく、相手の「考え」を注意深く観察することの必要性に触れています。

そうやって「貸し借り」を感じる力を得てくると、取引が、ビジネスが、もっと大げさに言えば世の中がどんな「貸し借り」の理屈で動いているかが、少しづつ解ってきます。

  

私も、「貸し借りは大きな意味を持つのだ」と、ある仕事を通して学びました。

それ以降、例えば仕事で人を紹介したり、逆に紹介されたりするケースにおいて、情報収集や分析、判断や判断に基づく実際の立ち振る舞いが根本的に変わりました。

同時に、歳をとってきた今、若い時の自分の「わかっていなさ加減」に赤面し、腹をたてることが多くなったりもして。

で、冒頭の、自分は、今、誰にどれだけ「借りて」いるんだろうか?と自問自答し、感謝の日々を過ごしています。

  

最後に少しいやらしい?おはなしをします。

私はサラリーマン時代、仕事の場では、“おごられたことを覚えている後輩”を、社内組織において何かと優遇してきました。

それは、決して御礼が欲しいから、ではありません。

「昨日はごちそうさまでした」としっかりお礼を言える後輩は、仕事が優秀かどうかわからないけど、少なくともこの「貸し借り」が分かっているので、ビジネスパートナーとして信用できる人間であろう、と。

 

実は、そんな理由からでした。

 

株式会社アズワン_小林